衛星ミッション
科学衛星ミッションでは,その観測装置のいくつかが国際協力の下で開発されます.その中で,それぞれのミッションに国際的な研究者を加え,国際的な科学作業チームが形成されて,衛星計画の内容や,軌道投入後の観測運用計画の議論が行なわれます.宇宙惑星研究グループでは,実際の宇宙プロジェクトに積極的に携わることが可能です.科学衛星の運用にも参加できます.このページでは,宇宙惑星研究グループに所属する研究者・学生が貢献している衛星ミッションを紹介します.
Research & Initiatives
宇宙プラズマ研究系では数多くの探査衛星を打ち上げてきました。 現在は地球磁気圏尾部探査衛星の「ジオテイル(GEOTAIL)」や、オーロラ観測衛星の「あけぼの(EXOS-D)」、オーロラの撮像と粒子計測を同時に行う小型衛星「れいめい(INDEX)」が現役で活躍しており、毎日貴重な データを送ってき ています。また、火星の上層大気の研究のために打ち上げられた火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」でも宇宙プラズマ研究系が先導的な役割を果たしました。現在は今夏打ち上げ予定の、月探査衛星「かぐや(SELENE)」による月周辺プラズマの観測が期待されています。今後は水星探査計画 「BepiColombo」における水星磁気圏探査衛星「MMO」や、次世代の磁気圏探査衛星「SCOPE」 などの計画に向けて本格的に動き出して行くことになります。
Research & Initiatives
宇宙プラズマ研究系では数多くの探査衛星を打ち上げてきました。 現在は地球磁気圏尾部探査衛星の「ジオテイル(GEOTAIL)」や、オーロラ観測衛星の「あけぼの(EXOS-D)」、オーロラの撮像と粒子計測を同時に行う小型衛星「れいめい(INDEX)」が現役で活躍しており、毎日貴重な データを送ってきています。また、火星の上層大気の研究のために打ち上げられた火星探査機「のぞみ(PLANET-B)」でも宇宙プラズマ研究系が先導的な役割を果たしました。現在は今夏打ち上げ予定の、月探査衛星「かぐや(SELENE)」による月周辺プラズマの観測が期待されています。今後は水星探査計画 「BepiColombo」における水星磁気圏探査衛星「MMO」や、次世代の磁気圏探査衛星「SCOPE」 などの計画に向けて本格的に動き出して行くことになります。
宇宙プラズマグループ / ISAS JAXA

GEOTAIL(磁気圏尾部観測衛星)
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地球周辺空間において、物理現象の起きている現場で直接観測を行う磁気圏尾部観測衛星:地球磁気圏尾部の構造とダイナミクスおよび磁気圏の高温プラズマの起源と加熱・加速過程を明らかにするため、日米の共同プロジェクトとして1983年からの構想〜計画開発、1992年打ち上げ、2022年現在も運用中であり、多くの研究者に引き継がれ永きにわたり興味深いデータを出し続けています
地球の尾っぽのプラズマ科学探査「GEOTAIL」
篠原 育(SHINOHARA, Iku)
【GEOTAILプロジェクトの概要】
磁気圏尾部観測衛星GEOTAILは、1992年7月24日に米国フロリダ州ケープカナベラルからデルタ-Ⅱロケットで打ち上げられた日米共同プロジェクトの衛星です。(図:1)
当初の主要な研究目的は、地球磁気圏尾部の構造とダイナミクスおよび磁気圏の高温プラズマの起源と加熱・加速過程を明らかにすること、すなわち、
・磁気圏尾部ではどのように磁場のエネルギーが変換され、イオンや電子の加速が行われているか?
・磁気圏尾部に存在する多様な波動はどう関わっているか?
・磁気圏尾部のプラズマはどのような起源をもち、どのように輸送されているか?
などでした。 この目的の達成のためにGEOTAILプロジェクトでは
・物理現象の起きている現場で直接観測を行う。
・地球周辺空間における巨視的な構造と微視的な物理過程を、
粒子分布関数、電場、磁場、波動など総合的な観測を行うことによって理解する。

図:1デルタⅡ-ロケットでの衛星うちあげ
上記の方針で観測計画がたてられ、特有の軌道計画が実行されました。
1994年11月までの2年余りの期間は、月との2重スウィングバイ技術などを駆使して遠地点が常に磁気圏尾部に来るように制御され、210REまでの広範な磁気圏尾部をくまなく探査し(参照:図2)、その後、磁気圏サブストームなどの研究のため、遠地点を30REに下げて現在に至っています。(参照:図3)

図2 GEOTAIL衛星の1992-1995年までの磁気圏遠尾部観測軌道

図3 GEOTAIL衛星の(左)1999年1-12月、(右)2007年1-6月、の近尾部観測軌道 軌道制御を行わなくなったために衛星が高緯度領域まで観測するようになった。
なお、近地点は9-10REで、この近地球軌道は昼間側の磁気圏境界面や前面衝撃波とその上流域などの観測にも適しています。搭載されている観測装置としては日米双方から合計7個(磁場計測装置、電場計測装置、2組(日米各1組)のプラズマ計測装置、2組(日米各1組)の高エネルギー粒子計測装置、プラズマ波動観測装置)があります。
表1:GEOTAILに搭載された科学観測機器

日本側が主任研究者の観測装置にも部分的に米国NASAから提供されたものも含まれているので、観測装置の約1/3が米国製、残りの2/3が日本製になります。さらに、日本製の観測装置にはヨーロッパ(ドイツ、ESA)提供のものも一部に含まれています。衛星の運用管制は宇宙科学研究本部が責任をもち、データ受信は日米双方で行われています。
GEOTAIL衛星は打ち上げ以降16年が経過しましたが、衛星や主な搭載観測機器の状態は良好で、日々の観測を続けています。GEOTAILプロジェクトは、これまでに幾多の大きな成果を挙げ、宇宙プラズマ物理学の研究進展に大きく貢献して来た事が世界的に高く評価されています。これまでに出版されたGEOTAIL関連の原著論文数は830編、総引用数は8,800を超えました。GEOTAILは、ISTP計画(太陽地球系物理学国際共同観測計画)において、米国のIMP-8、Wind、Polar、ロシアのInterball、欧州のCluster-IIとともに国際共同観測を実施してきましたが、2007年2月のTHEMIS衛星の打ち上げとともに迎えた本格的な多衛星による国際共同観測の時代に対して、打ち上げ16年を経過した現在でも、国際的な多衛星観測網の中での新しい役割を果たすことを、世界から期待されています。
【GEOTAILによる科学成果】
GEOTAIL衛星は、その注意深く設計された軌道によって磁気圏を探査し、高性能観測機器を組み合わせてプラズマ・ダイナミクスの「その場」観測を実施することで、磁気圏物理そのものの知見を深めただけでなく、新しい問題意識を生み出した。
その新しい視点は、世界初の編隊観測ミッションであるESAのCluster-IIに受け継がれ、編隊観測という新しい観測手段との相乗効果から宇宙プラズマ物理に新しい地平を切り拓きつつある。新しい視点は、観測と理論・シミュレーション研究とのシナジーも促進し、それに触発された大規模数値シミュレーションの結果に見られるプラズマの興味深い振る舞いは、我々に改めて宇宙プラズマの深遠さを思い知らせている。このような宇宙プラズマ研究の流れの中から、多点観測の重要性がより深く認識され、NASAのTHEMISミッションとの連携がGEOTAILの今後の最重要任務として挙げられている。また、現在検討中の将来計画SCOPE(Cross-Scale)において同時多点・多スケール観測を実施することが必須であること、そこでは「The Plasma Universe」という普遍性を意識しながら「その場」観測が可能な磁気圏というフィールドで宇宙プラズマの探求を進めるべきである、という認識も生まれた。
以下(参照:図4)に示すように、GEOTAIL衛星の軌道は磁気圏の様々な領域の探査を可能にすると同時に、その高性能観測は、それぞれの領域における素過程を解剖し、その本質的理解へと迫ることを可能にした。衝撃波、渦乱流、磁気リコネクションといった物理素過程は、宇宙プラズマにおいて普遍的に重要なものであり、「その場」プラズマ観測によってのみ手に入れることができる情報からそれらの本質へと迫るという手法が、これら素過程の根源的把握のためには必須であることを確信させるに至っている。

図4:地球磁気圏の概念図とGEOTAILの観測対象領域

GEOTAILを将来展望の文脈で捉える
藤本正樹(GEOTAIL Project Scientist)
【これからGEOTAILに関わる方々へ/大学院生・学部生へ】
若手諸君にとっては、GEOTAILは15年以上も前 (執筆当時2008年)の1992年に打ち上げられた長生き衛星で、データベースが充実しているのでモーメント値と磁場データを用いた統計解析を行うのに便利な衛星という、きわめて限定的な、一側面だけを捉えた印象があるのではないだろうか。もちろん、この側面、磁気圏ダイナミクスを観測の重ね合わせから可視化したいという欲求、あるいは、指標Aと指標Bの間にある相関を大量のデータから明示したいという欲求は、複雑に時空発展する磁気圏現象を扱う研究者にとっては自然なものであろう。しかし、磁気圏科学分野の最近10年を踏まえて今後の進展を考えるとき、このような「普通に」期待できる結果に加えて、GEOTAILの成果がもたらした衝撃、GEOTAILが分野にもたらしたダイナミズムということを正しく評価する必要がある。
成果を具体的に、ひとつひとつ丁寧に列挙する真面目な研究者からの批判を覚悟して敢えて断言すれば、GEOTAILがもたらした最大の衝撃は、磁気圏「その場」観測を通じた宇宙プラズマ物理研究の可能性を明確にしたことにある。
宇宙プラズマ物理の醍醐味は、その無衝突性にある。地上の常識が通用しないこの性質を実感しながら研究を進める、さらには、宇宙プラズマの根源的理解へと進むには、粒子が電磁場を感じて飛びまわっていること、その結果、速度空間である分布ができ、その積分としての電流密度が電磁場の時間発展に寄与していること、これらのことを「可視化」したい。GEOTAILに搭載されたプラズマ低エネルギー粒子観測器(LEP)は、その高感度特性を活かし、速度空間におけるイオン・電子の分布関数形状を、まさに、鮮やかに描き出したのだった。その分布関数形状は、無衝突性が故にマクスウエル分布からは程遠いものである。特に、磁気リコネクション領域近傍では、電流層中心へとローブから入りつつあるイオン成分と既に加速を受けて噴出する成分の重ね合わせが明確に捉えられたこと、加速され磁力線に沿って噴出す高エネルギー電子とは反対に磁気リコネクション領域へと吸い込まれる低エネルギー電子が検出されたことを、特に挙げることができよう。これらは、磁気リコネクション領域周辺で、イオン・スケールダイナミクスが発動していることの実証的根拠である。この実証は、「その場」で粒子が飛びまわっている様相を明らかにしたからこそ、可能なのである。
ところで、この最大の成果は事前に計画されていたことだったのだろうか。おそらくは違うだろう。GEOTAILが最終準備段階にあって私がまだ大学院生だった頃、「高感度観測を如何に活かすべきか」という質問を、何かの説明資料作成のために受けた記憶がある。当時、ちょうど粒子計算で博士号を取得しつつあったので、きわめて自然に、つまり、計算結果を解析するように自然データも解析したいという感覚で、「分布関数形状」と答えた。このような理論的背景とは、ある程度独立して、観測器屋は「とにかく何か新しい観測を」と考えて高感度にしたのだと思う。そして、GEOTAILチームでは、この二成分が化学反応を起こして、大きな成果を生むに至ったのである。
GEOTAILが起動した磁気圏観測の新しい動きは、日本人研究者が少なからず参加していることもあって、世界初の衛星編隊観測計画・クラスター(ESA)に引き継がれている。そこでは、4衛星の磁場観測から電流密度を推定するという編隊観測ならではの価値が付加される一方で、それを担う電子の分布関数を確定する、といった「鍵となる局所では分布関数レベルで精査する」という研究戦略が実施されている。
これは、THEMISにおいても同様であるべきだ。THEMISでは、多点での磁場・モーメント値から、MHD的な大規模様相を把握することがイメージされていると思うが、大規模様相の把握とは文脈がわかるということである、あるいは、敢えて言えば、それだけに過ぎない。文脈が把握されたのであれば、なおさら、「鍵となる局所」へのズーム・イン欲求が、少なくともGEOTAILerを名乗るのであれば、高まって然るべきである。「双極子-尾部遷移領域でのダイポーラリゼーションにおける電子加速」という問題に関して、そのようなアプローチから面白い結果が出つつあることを、特に指摘したい。
GEOTAILerという学閥で薫陶を受け、CL・THMで、この価値観に則って、そして、さらには新しい視点を加えながら経験を積むことは、SCOPEの成功に必須である。また、ベッピ・コロンボ(水星:矮小磁気圏)、SCOPE(地球:衛星編隊による同時マルチスケール観測)、ラプラス(木星:巨大磁気圏)をつなげて、「プラズマ宇宙」というひとつの目標へと向かう「黄金20年」計画は、GEOTAILにおいてそうであったように、いくつかの異なる興味を出発点とする研究者の集団に、多様性を内包しながら全体として整合的な方向性を与えるものである。与えられた舞台で踊ること以上に、新しい舞台を作っていくことの充実感を経験させてくれたのがGEOTAILであり、この意味での経験こそが将来計画において活かされるべきだと思う。

GEOTAILのこれから
【2022年以降の観測計画】
【2008-2012年の観測計画】
Geotailの運用延長期間においては、
(1) 定評のある高性能観測を磁気圏の未観測領域において実施
(2) 一部観測機器の設定を変更し次世代観測に向けた高時間分解能観測に挑戦
(3) 定評のある高性能観測を2007年に打ち上げられたNASA・THEMISなどとの共同観測という枠組みで実施し、磁気圏ダイナミクスの多点観測を充実した形で実施する。特に、THEMISとの共同観測には、Geotailの軌道が真にTHEMIS編隊の観測を支援(あるいは、場合によっては逆の関係にもなる)する形にあるので、全世界の研究者からの強い期待が寄せられている。

GEOTAILミッションの幕開け
計画立ち上げ・衛星打ち上げ初期の逸話
長き栄光の歩み始め
GEOTAIL計画の構想から20年
西田 篤弘
1992年に打ち上げられたGEOTAIL衛星は現在も磁気圏物理学の分野で大活躍している。GEOTAIL計画は宇宙研とNASAがほぼ同規模の予算を投入した大型の国際協力プロジェクトであるが、今年2003年はこの計画の構想がまとまった1983年からちょうど20年目に当たる。
磁気圏の構造や活動を支配するのは太陽風である。1978年頃から地球周辺の宇宙空間に衛星ネットワークを張って磁気圏物理の研究を前進させようという気運が高まり、アメリカの研究者を中心にOPEN計画の立案が始められた。OPENはOrigin of Plasmas in the Earth’s Neighborhoodの略である。私も企画委員会のメンバーであったが、立案に参加しているうちに宇宙研も同じ時期に科学衛星を打ち上げてこの計画に自主的な立場から参加すべきだと思うようになった。理由の一つは原案では磁気圏の主要な領域が十分にカバーされず、重要な問題を解く鍵が得られない恐れがあるということであり、もう一つは宇宙研がNASAのOPENと対等に取り組む力を獲得しつつあるということであった。ハレー彗星探査計画が走り出し、ロケット、衛星、通信等さまざまな面で飛躍的に発展しつつあった時期である。
重要な問題とは磁気圏尾部で起きる磁力線リコネクションのことである。磁力線リコネクションは磁場に蓄えられたエネルギーを開放してプラズマを加速する過程で、磁気圏ダイナミックスの要の役割を果たすメカニズムである。それにも拘らずOPENの原案にはリコネクションが爆発的に発生する地球から20ないし30 Re (Reは地球の半径)の尾部領域を観測できる衛星が含まれていなかった。そこで宇宙観測専門委員会のもとにOPEN-J研究班を設け、20 x 7 Re, i =0° 軌道での実験計画を作った(1980年、1981年に改定)。輸送系の先生方には当時開発中のM-3SIIに新規のKM-Pを加えて20 Re x 1,000 km、i = 0°の軌道に170 kgを投入する案をベースに、衛星重量を250 kgに増すことに向けて検討をお願いしていた。
ところが1983年始めにNASAのOPEN担当者からOPEN衛星の一つであるEMLをOPEN-Jに置き換えてスペース・シャトルで打ち上げるという提案がもたらされた。NASAがスペース・シャトルで打ち上げるというのであればロケット開発経費が節約できるだけでなく衛星を大型化することができる。しかしEMLは放射線帯観測を主目的とする衛星であって高度も数Re程度でしかなく、OPEN-Jの目的を果たすことはできない。5月に來所したOPEN担当者代表はこの不整合に弾力的に対応し、EMLでなくGTL(磁気圏尾部の遠隔領域を探査する衛星)と置き換えることも考慮することを約束した。

NASA首脳からOPENを国際協力にすべしとの命をうけてGSFCのプロジェクト担当者が打診に来所

04は共同ミッションの検討を本格的に始めた
その背景にはOPEN提案がNASAで行き詰まっていたということがあ る。彼等は4基の衛星を打ち上げる計画を作っていたのであるが、これには約800億円を要するため、OSSA(科学・応用部)部長から国際協力によって経費を分散することがOPEN計画実現のための必要条件だと告げられていたのである。OPEN代表は9月に再び来所し、GTLとOPEN-Jを統合して新たな衛星計画をつくること、この衛星の軌道は2段階に分け、最初はGTL的な遠隔尾部観測衛星とし、その後軌道を低くしてOPEN-J的な近尾部観測を行うことで合意した。こうしてGEOTAIL計画が生まれたのである。同時にOPEN計画は再編成されてISTP(International Solar Terrestrial Physics)計画となり、ESAも参加した。
この動きには更に深い背景もあった。宇宙開発における国際協力が1982年のヴェルサイユ・サミットで取り上げられ1983年のウイリアムスバーグ・サミットで報告が行われることになっていたが、具体案の策定にあたるワーキング・グループの一つとして太陽地球系科学を含む太陽系探査WGが作られていた。国際政治の桧舞台まで借りて大きな仕掛けを拵えた策士がいたようである。
GEOTAIL計画が日米共同計画として滑り出したばかりの1987年にChallenger事故がおき、打上がシャトルからデルタIIロケットに変更された。不測の事態であったが発足直後だったために大きな支障もなく計画を改定することができた。発足時には予想できなかった難題は協力協定の「損害賠償請求権相互放棄」条項で日米両政府が真っ向から対立したことである。GEOTAIL計画だけでなくこれに続くSFU計画でも文部省に多大のご苦労をおかけした案件だったので、本年度から発足する宇宙航空研究開発機構の業務方法書(案)に「宇宙の開発および利用に関する条約その他の国際約束をわが国が誠実に履行するために機構が講ずる措置」が明記されているのを見て感慨深かった。
GEOTAILの日陰オペレーション
向井 利典
1993年9月1日深夜の相模原慣性センターは一種異様な雰囲気に包まれていた。臼田、内之浦にもGEOTAIL衛星や地上系システムを熟知した宇宙研およびメーカーのベテランが駆けつけ、万全の体制である。衛星はまもなく、初めての日陰(但し、近地球周回衛星と違って月の影)に入るが、異様な雰囲気はそれが理由ではない。本影最後の所でバッテリーを切り離すことによって衛星電源を瞬断させるという特別オペをこれから真にやらんとしているためである。約一年前の初期観測ですばらしいデータを出した直後にラッチアップを起こしたままになっているプラズマ観測装置を復帰させるには、これが唯一の可能な方法であるというのがその検討ワーキング・グループの結論であった。この1年間できる限りの検討をしてきたとはいえ、未経験のオペレーションである。
23時35分半影開始、23時43分いよいよ本影に突入。コマンド送信、チェック・シートによる衛星状態の監視は予め決められた手順にしたがって順調に進んでいる。0時17分、バッテリーを切り離し、ついに電波が途絶える。臼田に管制権をわたし、内之浦からの経過時間のアナウンスが指令電話を通して聞こえてくるだけである。約10分後、太陽電池からの出力上昇に伴って電波が復帰、更に数分おいて安定してきたところでコマンドを送信、PCMテレメーターがロック。衛星の状態をチェック、目的としていたラッチアップが解消できたことを確認。「ほっ」。直ちに予定の衛星再立ち上げ手順に入る。
翌日から本格的に搭載機器の再立ち上げ作業が始まり、プログラムの再ロード等のために約2週間を要したが、その最後として9月14日、プラズマ観測装置の一年ぶりのデータを再び目にした途端に一挙に疲労の極に達してしまった。GEOTAILは、1992年7月24日に打ち上げられて依頼、順調に飛行を続けており磁気圏尾部領域のプラズマと構造に関して新しい知見を得てきた。プラズマ観測装置は日米双方のものが2セット搭載されているために衛星全体のミッション目的は達成されつつあったとはいえ、これで本当に全観測装置が出そろうことになった。翌15日、予定通りの軌道制御を終えて、管制室は再びもとの静けさを取り戻した。
1993年9月1日のオペレーションのためにご協力いただいた関係各方面の方々にあらためて感謝する次第である。
GEOTAIL Good Luck Flag July1992

GEOTAIL計画に携わり第一線で活躍された研究者の方々に、GEOTAIL関連について執筆いただきました (2022年旧サイトより転記)
【宇宙・プラズマ・Geotail】
浅野 芳洋
夜空の星々を飽きずに眺めつつ、パイオニアビーナスやボイジャーの写真等でわくわくしていた子供時代。しかしそれらの衛星を作り上げ、 打ち上げた人々、そのデータを元に研究する人々の存在は、私の人生からは遥か遠く彼方のものでした。ましてやこれら画像のある惑星科学や宇宙誕生の壮大な謎を解く天文学に比べ、日本では見られないカーテン状オーロラの物理や、目で見ることができないだけでなく,重力や大気などと比べて実感することも難しい磁場・電場・プラズマ等の観測をベースにした磁気圏物理学に私が辿り付くには多くの時間を要しました。
しかし一方で、それが未知の魅力でもあり、私を磁気圏研究にぐっと引き寄せた原因でもあります。そして最終的には、大学生の頃講義で示されたGeotail衛星のプラズマデータが進む道を決定付けたといっても過言ではないでしょう。さもなければ気象学か惑星形成の物理をやっていたに違いありません。しかしながら、このように感覚的に取り付きにくい分野であるために、Geotail衛星のデータを見始めて10年以上経った今でも専門家以外に研究内容を説明する時には苦労します。
プラズマといっただけで分からないからと逃げられる方も多いですし、一生懸命聞いている風で最後に一言「分からなかった…」等。Geotail衛星といっても何を観測しているのか理解してもらえないまま、衛星よりもロケットの話題になったり、プラズマディスプレイと液晶ディスプレイの違いの議論に変わっていたり、地球磁場の説明や神社の磁場が…などと話がまったく噛み合わずに終わったこと、プラズマからヒトダマの話にひたすら脱線していったことなど…しばしばあります。でもそれも楽しみの一つかもしれませんね。
まだまだそんな魅惑的な(?)プラズマを直接観測し続けているGeotail、素敵な観測衛星です。
【GEOTAILと出合って】
今田 晋亮
GEOTAIL衛星との出会いは大学の学部生演習の時でした。当時、私は地球惑星物理学科の学生で、人工的ではない自然現象そのものを、物理理論と観測の両者から議論ができる研究を行いたいと思っていました。なかなかこの両者のバランスが良い研究分野というのは見つからなかったのですが、GEOTAIL衛星は、この気持ちに見事に応えてくれました。
私が行った学生演習の内容は、太陽風中での中性のヘリウムが太陽紫外光などによって電離したものを解析するというものでした。演習の内容はかなりマニアな内容(おそらく打ち上げ当初はこのような研究をGEOTAIL衛星でしようと思っていた人はいないという意味で)でしたが、この演習を通して様々な宇宙プラズマの理論、及び現在の技術で何が観測できるのかを学びました。この演習以前は、GEOTAIL衛星が何を計測しているのかまったく知らなかったので、初めてGEOTAIL衛星のデータに触れたときは驚きの連続でした。例えば、太陽から吹き出る太陽風そのものをGEOTAIL衛星は観測しています。この演習の前に高速の太陽風(秒速400km程度)の存在、及びどのようにしてこの高速の風が吹いているのか(パーカーの太陽風理論)を学んでいました。素人考えに風速計のようなものを使って測るのであろうと思っていたのですが、実際には太陽から飛んでくる粒子をそのまま測るのです。これまで、熱力学などの講義で速度分布関数(ある速度ごとに粒子がどのくらい存在するか)というものを学んできましたが、これを宇宙空間でそのまま計測することが可能だとは思いもしませんでした。GEOATIL衛星の観測した速度分布関数を見てみると、太陽から地球方向に向かって毎秒400kmのところにピークを持ち、そのピークからガウス分布(マックスウェル分布)に従って滑らかに減衰する分布をしていることがわかります。この減衰する割合から温度を求める事もできます。これらの結果は太陽風理論と非常に良く合う結果で、これほど自然現象そのものを精密に観測可能で、物理的な内容も面白い分野があるのだと感激しました。実は今述べた太陽風の話は流体的な現象なので、速度分布関数レベルの議論は必要ないのですが、宇宙プラズマでは非流体的な現象(分布関数がガウス分布にならない)が数多く存在します。地球大気のような高密度の気体では分子が約1 ccで10の20乗個程度ありますが、宇宙空間では非常に希薄でプラズマが1 ccで数個程度しかありません。つまり粒子と粒子はほとんど衝突せず、いわゆる無衝突なプラズマの状態で存在します。このため、宇宙空間では粒子同士が衝突する空間スケールより小さい現象を分布関数レベルで観測することができるのです。これがGEOTAIL衛星の強みです。
この演習の後、修士、博士過程に進学し、GEOTAIL衛星を用いて無衝突プラズマ特有の現象である磁気圏尾部での粒子加速という研究を行ってきました。粒子加速とは、エネルギーの高い粒子がガウス分布から予想される量より過剰になる現象です。このような現象を理解するためには、小さい空間スケールからある程度大きな空間スケールの現象を理解する必要があり、GEOTAIL衛星はこれらの議論を可能にしてくれました。現在、私はお隣の分野である太陽物理学(ひので衛星)で研究を行っています。太陽の分野ではGEOTAIL衛星のように直接、分布関数を測ることはできません。しかし、GEOTAIL衛星での研究で培った、特に小さな空間スケールの宇宙プラズマ物理の理解が、太陽物理を新しい視点から研究する種になっています。
【Geotailと海外での共同研究】
桂華 邦裕
私は学生時代、Geotail衛星で取得された磁場やプラズマのデータを使って、バウショックでの太陽風粒子加速と地球磁気粒子の磁気圏外流出に関する研究を行っていました。国際的に高い評価を受けているGeotailを利用したことで、多くの事を経験することができましたが、何より貴重な経験になったのは、多くの外国人研究者と共同研究する機会を得たことです。
私は、アメリカのジョンズホプキンス大学応用物理研究所で設計されたEPIC観測器を主に利用していたため、同研究所の研究者や衛星設計者と頻繁に話し合う機会がありました。さらに、2度に分けて合計6ヶ月間、同研究所を訪問する機会にも恵まれました。そこでは、多くの研究者と議論を重ねることで自分の研究をより洗練させることができた上、車で高速道路をひたすら飛ばして出勤したり巨大スーパーで1ガロン牛乳を買ったりといった、アメリカならではの環境で研究生活を送る面白さも味わうことができました。また、現地研究者との良いコネクションができたため、その後の関連研究にも大きく役立ちました。実際、博士課程後半には、同研究所が設計したIMAGE衛星搭載高エネルギー中性粒子検出器HENAのデータ提供を受けることができ、博士論文をより内容の濃いものに仕上げることができました。
そして今、私は卒業後、欧州オーストリアのグラーツに渡り、新しい衛星のデータも用いて研究の幅を広げています。ClusterやTHEMISといった新しい衛星は、Geotailで得られた多くの重要な科学的成果に基づいて計画されたものなので、Geotailを使って研究していたことが今の研究にとてもプラスになっています。また、海外での研究生活に関しても学生時代の短期滞在の経験が生き、異なる文化や習慣での生活に大きく戸惑うことなく、比較的早く新しい環境に馴染むことができました。まだまだ悪戦苦闘の連続ですが、家族とともに充実した生活を送ることができています。
【磁気圏&宇宙プラズマの面白さとGEOTAIL】
島田 延枝
地球の(Geo-)磁気圏尾部(Tail)を調べるために1992年に打ち上げられた人工衛星があります。私が大学院に入った頃に、何やら凄い探査機が活躍を始めたらしい、と話題の主になっていたのが、この最新・気鋭の磁気圏プラズマ探査機GEOTAILです。時折めぐってくる「運用当番」として、宇宙科学研究本部(宇宙研)のオペレーター室のコンピュータに映し出されている、多種多様な機器の状態に思いを馳せるうちに、生来苦手で仕方なかった「機械類」に愛着すら感じるようになってきました。大学院を卒業して宇宙研に来た時、これまた時折めぐってくる「アンテナ角書き換え当番」の日は、朝からご飯がのどに通らなかったのも、今ではいい思い出です。この「お仕事」は、実のところちょっとしたコマンドを送るだけで、私は特に何もするわけではないのですが、これを間違うとGEOTAILと通信がとれなくなる!と聞いて随分と緊張したものです。宇宙空間には、地上で達成できる超高真空よりもずっと希薄ですが、プラズマが満ち電磁波が飛び交っています。地球から何万kmも離れた宇宙空間から「まさに、その空間でのリアルタイム宇宙プラズマデータが送られてくる!」という現場を実際に見聞きし、感動したことは、その後研究を行っていく上で大きな支えになりました。
博士課程では、太陽面爆発に伴って発生する惑星間空間衝撃波がテーマでしたが、強い衝撃波がやって来た時、運の良い事にGEOTAILは地球磁気圏の外にいて、この衝撃波を観察しくれていました。当時の指導教官である寺沢敏夫先生に「面白いデータがありますよ!」と教えて頂いたお陰で、この衝撃波のGEOTAILデータの解析を行うことができ、後の研究テーマである衝撃波面での電子ダイナミクスへと話を繋げることができました。この衝撃波は秒速900km(!)という猛スピードで一瞬にして通り過ぎてしまったので、「衝撃波面そのもの」で何が起こっているのか、当時最高の機械を積んでいたGEOTAILですら分かりません。しかし、それを補うようにコンピュータ上で計算、シミュレートする、というバーチャルな世界に行っても、あまり迷わず(?)済んだのはGEOTAILがもたらしてくれた生のデータをじっくり見ることが出来たお陰だと思います。 初めにお話しましたように、私が研究を始めた頃には文字通り、既に軌道に乗っていたGEOTAILですが、その計画が具体的に議論され始めたのは1970年代後半だそうです。GEOTAIL構想時からの重要メンバーのお一人である西田篤弘先生は、私の指導教官の更に指導教官にあたる方なのですが、最寄り駅がたまたま同じ、ということで、ある時電車の中で短い時間でしたがGEOTAIL誕生の思い出話をお聞きすることができました。淡々と静かなお話ぶりとは裏腹に、サイエンスからは直接的には、こみ上げてこない人間臭いドラマや情熱を感じ、一つの探査機が華々しい科学的データを出すまでの長く険しい道のりは如何なものだったか、と思い至りました。既に形になっているデータを楽々扱える立場にある、というのは何と幸せな事でしょう!
今「宇宙科学」や「地球科学」の講義を行う機会がありますが、全十数回のうち一回を「磁気圏の科学:オーロラのふるさと」として充てることにしています。日常生活を送る上で磁気圏というのは馴染みが薄いのが普通だと思いますので、皆さん初めはピンと来ないようですが、地球その他の広大な惑星固有の空間としての「磁気圏」の成り立ちや構造、そしてオーロラとの関連、身近な環境としての「宇宙空間」と話を進めていくうちに目に見えない宇宙空間のダイナミクスに関心を示してくれ、嬉しい感想を頂くことも多々あります。この授業回では、GEOTAILのデータも登場するのですが、そのあたり、つい力が入ってしまいます(笑)。これからも、磁気圏&宇宙プラズマの面白さを感じてもらうべく、講義を通じた広報活動を行っていけたら、と思います。 最後になりましたが、GEOTAILを成功させ、支えてこられた沢山の方々に感謝したいと思います。
【ジオテイル衛星と宇宙で宝探し】
白井 仁人
人工衛星のデータ解析は「宝探し」に似ている。宝に相当するのは未知の現象や法則である。もしも未発見の現象や法則が見つかればその時それを知っているのは自分だけである。つまり、世界で誰一人知らないことを自分だけが知っている。これはかなり興奮する出来事だし、それを想像するとデータ解析はワクワクする作業となる。ただし、宝の発見は簡単ではない。それは複雑で大量のデータの中に埋もれていてすぐには見つからない。大量のデータを調べたからといって必ず見つかるとは限らないし、少量のデータからうまく宝を掘り出せることもある。重要なことは誰も探していない所を探すことだろう。したがって、データ解析者にはその人独自の視点が大切になるし、人工衛星の場合は他の衛星が探査していない領域を探査することや、新しい手法で観測することなどがとても重要になる。
それを考えるとジオテイル衛星はとても魅力的な人工衛星である。なぜなら他の衛星がほとんど探査していなかった領域(地球のしっぽのかなり遠くの部分)を詳しく観測したからである。一般の人は、地球がしっぽを持っていることを知っているだろうか。ジオテイルという名前は「ジオ=地球」と「テイル=しっぽ」に由来する。地球が磁場を持っていることはよく知られているが、その磁場が地球大気の外まで広がり、さらに太陽と反対方向に「しっぽ」のように伸びていることはあまり知られていないだろう。地球は彗星のような「しっぽ」を持っているのだ。しかし、このしっぽがどのように形成されるのかなど詳しいことはまだわかっていない。地球のしっぽの物理学は未完成だと言える。近年、太陽フレアやその他の宇宙現象が地球のしっぽで起こる現象とよく似ていることが明らかになり、しっぽの物理学の重要性は増している。
地球のしっぽの物理学の完成に向けてジオテイル衛星は大きな貢献をした。その一つが、宇宙空間の電離ガスが地球のしっぽの中へどのようにして侵入するのかという問題の解決である。一つの答えは、しっぽの一部(磁力線)が宇宙空間とつながっていてそこから電離ガスが入ってくるというものであった。そしてもう一つは、しっぽの横に渦ができてそこで外側と内側の電離ガスが混ざり合って入ってくるという答えであった。どちらの答えもジオテイル衛星の観測によって確認され、両方とも重要な侵入メカニズムであることが明らかにされた。
私はこの第一の答えを出すのに貢献したのだが、それはとても幸運な経験だった。博士課程で指導教官に助けられながら解析したのだが、その宝(第一の答えの証拠)を見つけ出したときの興奮は今でも忘れられない。それはまさに、世界でまだ誰も知らない貴重な現象を見つけたという感覚であった。私は現在もデータ解析を続けており、いつもワクワクする気持ちで「宝探し」をしている。ジオテイル衛星と一緒に行う「宇宙での宝探し」は一生やめられそうにない。
【Geotail衛星との出会いから現在まで・・・】
高田 拓
私がGeotail衛星と関わりをもつようになったのは、大学の卒業研究で惑星間空間研究室に配属されたのがきっかけだった。漠然とプラズマという物に興味を持っていた私に、科学衛星で計測したプラズマのデータを面白そうに眺めている先輩達の姿が印象的だった・・・。以来、地球の周りで起こっている物理現象を理解することを目指し、長いことGeotail衛星には関わりを持たせてもらっている。
今、宇宙科学研究本部で働いていて気付くことがある。大学院時代は、地方大学で衛星データをダウンロードして解析を行ってきたため、ミッションを陰で支えている部分がよく見えていなかったのだ。通常運用されているGeotail衛星のデータでさえも、表に出てくるまでには、現在でも多くの人達の労力の積み重ねがあったりする。特に日本では科学者への負担が非常に大きいこともあり、ミッションの中核をなす研究機関で過ごす中で色々と考えさせられる。
衛星ミッションは、計画段階から数えると非常に長期にわたり、多くの人達の協力の上で成り立っている。私自身、Geotail衛星に対しては、データ解析を順調に行えていた最終フェーズでミッションに関わったことになる。その後、Geotail衛星だけでなく、ESAやNASAのミッションのデータを使って研究活動をしてきたが、そうした今までの経験を、今後の日本の科学ミッションに対しての寄与と言う形で生かすことができたら、それはGeotail衛星に恩返しを出来たということになるのかもしれない。
【Geotail衛星とのめぐり逢い】
堀 智昭
私がGeotail衛星のことを初めて知ったのは、1994年の夏頃だったと記憶しています。当時私は研究室に配属されて数か月の大学4年生。打ち上げより2年経ち、研究環境の整備ができつつあったGeotailのデータを使った研究が、私の卒業研究のテーマとして与えられたのでした。 その時点での私は宇宙科学に対する一般的な知識はあっても、専門的な知識はまだまだ勉強し始めたという段階でした。ましてや宇宙プラズマの研究の最前線などに触れたことなどあるわけもなく、Geotail衛星のデータを通して見える地球磁気圏(地球周辺の宇宙空間のうち地球磁場の勢力圏内になっている領域)の姿が、私にとっての宇宙プラズマ物理の“生きた教科書”となっていったのでした。
その時から現在まで約14年。その間にGeotailによってもたされた科学的成果は宇宙プラズマ物理、磁気圏物理の中でも多岐にわたり、その中には世界の研究者から注目を浴びる重要な発見もいろいろありました。その研究の一端を担えたことは、その後研究者の道を歩むことになった私にとって1つの誇りであり、かつ、かけがえのない財産でもあります。
そうして得た財産には宇宙空間でのプラズマの振る舞いに関する具体的な知識だけでなく、研究者としての重要な経験も含まれています。その1つは、磁気圏遠尾部という未知の領域の情報がどんどん手元に入ってくることのおもしろさを体験したことでした。当時は過去に米国の衛星によるフライバイが数回あった程度で、その非常に限られた観測に基づいた研究から得られた磁気圏遠尾部の概念図がありました。その概念図と、日々Geotailより送られてくるデータ、及びそれを解析した結果と比較すると、少しずつ両者の違いが見えてきます。既存の概念とは異なる、新しいものを発見するということのおもしろさを味わった瞬間でした。それと同時に、実際に“その場”で行うプラズマと電磁場の直接観測というものが(宇宙プラズマ物理の進歩に対して)どれほど多くの可能性を秘めていることなのかを、実感させられました。この時の経験が、常に観測の最前線で宇宙を眺めていたいという、現在の自分の研究姿勢のようなものにつながっています。
そしてもう1つ、それは世界の研究者が自分の研究に注目してくれるということの快感(笑。今思えば拙い英語で要領を得ない発表をしていたと思うのですが、それでも名だたる一流の研究者たちが自分の話を真剣に聞いてくれました。Geotailに携わったおかげで、いわゆる「研究者冥利に尽きる」という感覚を味わわせてもらったと思っています。その時の気持ちが、全てではないにしても、現在でも研究に対するモチベーションの一部になっているということを否定できません。
そんなGeotailは打ち上げから16年経った今でも現役。磁気圏の重要なデータを毎日送り届けてくれています。この衛星を通じて多くのことを学び、感じて、これからも多くの研究者が育っていくことを期待してやみません。
【GEOTAIL四半世紀の集い】
2017年7月22日 学士会館
2015年1月に西田先生のご提案で、GEOTAIL衛星の開発・運用にご参加いただいた 方々にお集まりいただき「ジオテイル衛星チームの集い」が開催されました。 この集会の機会に、GEOTAILプロジェクトの計画段階から開発、飛翔前試験、 射場作業、運用に至る担当者の方々からの貴重な話を文集としてまとめました。